「夏休みは予定があるから、ごめんね、無理だよ」
が申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせた
俺は、が俺たちだけの約束を優先したことに安堵を覚えたけれど
「・・そうだよな、突然誘っても、無理か、仕方ないよな・・・」
そう言ってビールジョッキを一気にあおった金城のがっかりした顔
それと、同じくらいに落胆の色がある吉永の顔色が気になった
「ところで、今日の映画だけど」
少しばかり重たくなった空気を払拭しようと、金城が別の話題に切り替えた
もちろん今日観て来たばかりの映画の話は、女二人にとっても楽しみな話題だったようで
その場はまたすぐに、それまでと同じような雰囲気に戻った
「ちょっと飲みすぎたかな」
しばらくして金城が席を立った
少しふらつく足元は、正直に飲みすぎでもあるのだろう
「大丈夫?」
「ああ、ちょっとトイレ」
そういった金城の後姿を吉永が本当に心配そうに見ていた
俺は思うところがあって
「俺もちょっといってくる」
そういい残し席を立った
「さよちゃん・・・ごめんね」
「、そんなこと気にしなくていいよ」
向かい合った席で私はさよちゃんの手を握って、沖縄行きのことを謝った
さよちゃんが「行きたい」って言ったとき、私も気持ちが揺れた
でも、珪くんとの旅行の約束もある
沖縄行きを決めてしまうわけにはいかなかった
「本当にごめんね、一緒にいければって思ったけど」
「いいの、葉月くんとどこか行くんでしょ?」
「うん、夏休みに入ったらすぐ温泉に行こうって約束してるんだ」
「だよね、夏の予定ってもう決まってるよね、普通
金城くんも行き当たりばったりで突然言い出すんだもん、急に言われても困るよね」
「さよちゃん、怒ってない?」
「なに馬鹿なこと言ってるの、にはいつも感謝してるって
夏休みが終わったら、金城くんにはまた会えるんだから、大丈夫だよ」
少し伏し目がちなさよちゃん
金城くんが夏休みに沖縄に帰ってしまうことは、もう前からわかっていた
だから寂しいなぁって、さよちゃんは言っていた
「殿方」そう書いてあるドアを押すと、洗面台の鏡の前で金城ががっくりと肩を落としていた
「おい・・・」
「ああ、葉月か」
「・・ん、大丈夫か」
「大丈夫なわけないだろ、また失敗だよ、はあ・・・・」
「吉永は行くっていっただろ・・・
もう少し強く・・・吉永だけを誘うってのは無理なのか?」
「さよりだけできてくれるなら、それでももちろんいい
でも、あの場でまた『が一緒ならいいけど』って言いだしたら
一度断ったが困るだろ、予定があるって言ってたし」
金城は、誘いを断ったの立場まで考えている
思ったよりもこの男はいい奴なんだ・・・そう感じた
「沖縄には・・・いつ行くんだ?」
「いつって、夏休みに入ったらすぐ帰るんだ、俺は」
「そうか・・・で、いつまで向こうにいるんだ?」
「そうだな、バイトがあるから、多分休みいっぱいは戻ってこないよ」
「バイト?」
「ああ、俺の親、ホテルしてて、夏休みは忙しいだろ、その手伝いなんだ」
「そうなのか・・・じゃ、吉永が一人で来るより、ってのもありか」
「ああ、そういうことだ
飲みながら思ったんだけどな・・・
おまえら同級生にしては、結構仲がいいみたいだし
葉月が一緒ならもOKくれるかもしれないって期待して
思い切って沖縄の事言ってみたんだ・・・ま、仕方ないさ」
金城は力なくうなだれて・・・首を数回横に振る
深いため息が奴の落胆を物語っていた
店を出て、俺たちは、はばたき駅まで一緒に歩いた
湿度が高いものの夜になれば少し肌寒いような気すらする
「それじゃ、俺はさよりを送っていく」
「ああ、じゃ、俺はを・・・」
駅前でふた手に分かれ、奴らは電車に乗るために改札へ向かった
俺とはその後姿を見送ってからバスターミナルへ向かった
途中のコーヒースタンドで、テイクアウトのコーヒーを二つ買った
酒のにおいをさせたままを送るわけにはいかない
酔い覚ましにはならなくても、少しはごまかせるだろう
そしていつものように4個目のバス停で降り
住宅街を一緒に歩いて・・・
もう決まっているように、いつもの公園のベンチに腰をかけた
「はい、珪くんのコーヒー」
「ん・・・」
袋の中からカップ入りのコーヒーを取り出して口にする
映画館で飲んだのと同じで、少し薄い、それでいて苦味があるブレンドだ
「今日はごめんね、珪くん」
「ん?」
「さよちゃんと金城くん、一緒でびっくりしたでしょ?」
「ああ・・・そうだったな」
映画館に現れた時に、が一人じゃなかったこと
俺たちが一緒に観ようと約束していたSF超大作の映画を観ると決めたこと
そしてなによりも、現れた金城がを「」と呼んだこと
俺にとっては何から何までわからない事だらけだった
「友達のため・・・そうだろ?」
「珪くん、わかってくれてたの?」
「ん・・・」
「よかったぁ、珪くん怒らないかなってすごく気にしたんだよ」
心底ほっとした、そんな表情ではもっていたカップのコーヒーを飲んだ
友達のためになら、できることはしてあげたい
のそういう気持ちは、いままでの俺にはあまり理解できなかった
でも、今日、の二人の友人に会ったことで
がどんなに友人を大事にしていて
友人にも大事にされているか、少しわかった気がしていた
「あの二人って、見た目遊んでそうな感じだけど
でも、全然そんなことなくって、本当はとってもいい人なんだ
だから、さよちゃんの気持ちが金城くんに伝わって
二人が付き合ってくれると本当にいいんだけどね」
「え・・・?」
「だってさよちゃん、すっごくすっごく金城くんのこと好きなんだよ〜」
「・・・吉永、そんなに金城を好きなのか」
「うんうん、珪くんが見ててもわかるくらいだから、本当ラブビームだよねぇ
私も珪くんに、ラブラブビーム攻撃しようっか」
はそういって笑った
そうだったのか・・・・
金城が吉永を好きなだけじゃなくて
吉永も金城を好きなわけで・・・つまり両思いだ
でもは、近くにいながら、その事実を全く気づいていないのか・・・・
「・・・、俺さ」
「ん?なぁに?」
「おまえの事・・・本当に好きだよ」
「えっ?!」
俺の言葉には驚いたように目を真ん丸くして急に顔を赤らめた
「そ、そ、そんなこと、突然言うなんて、やぁー、もう、珪くんってばー!!」
照れ隠しなのか、は俺の背中をバシバシ叩き始めた
のこんな可愛い攻撃はもう慣れっこだけれど
本当に、鈍感なんだな・・・こいつ
だからには、言葉できちんと伝えなければいけない・・・
もしも、がもう少し気の利くタイプなら・・・・
きっとあの二人はとっくに付き合っているんじゃないだろうか
そう思うと、金城と吉永の二人が、なんだか少し可哀想な気がした
それから半月後
俺たちは約束していた海辺の温泉へ向かっている
ようやく取れた休日
明けたばかりの梅雨、そして眩しい太陽
二人で待ちわびた旅行だ
車窓を流れる景色は、少しずつ緑が濃くなってゆく
たった2時間の距離だけれど
二人で一緒にはばたき市を離れてゆくのがわかるのは、やはり嬉しい
「あのね、水着はね〜」
が嬉しそうにカバンを開けて中身を出そうとするから
俺は慌ててその手を制する
今のなら電車の中であろうと水着に着替えかねない勢いだ
「ん、もぉ、珪くんに見せたいのにー!」
「わかった、海へついたらじっくりじっくり見るから」
「じっくり見る・・・って、なんかやらしい」
「・・・ん?」
「珪くんは水着じゃなくて、中身を見たいくせに〜!」
「・・・・」
「もぉ、エッチな珪く〜ん」
って・・・おまえ
それは、中身を見たいのは事実だ・・・・
そんなことを今言うってのも
しかも、嬉しそうだぞ・・・
「ねえ、珪くん、温泉楽しみだね〜」
椅子の上で足をぶらぶらさせながら、は終始ニコニコしている
うきうきする
文字にすると、そんな気持ち
がそう感じていてくれることが、手に取るようにわかった
それは俺にとっても嬉しいことだ
やがて電車は目的の駅へついて・・・俺たちはタクシーで宿へ向かった
タクシーの窓から見える景色は、驚くほど青い海だった
「すごい・・・海が本当に綺麗!」
「まだ梅雨があけたばかりだもんで、海も綺麗でなぁ
お客さんたちは一番いいときにきなすったなぁ」
運転手が訛りのある言葉でそう話す
本当にいいところへきた
優しい言葉が、そんな気持ちにさせてくれた
そして海沿いの道を走りトンネルを抜けると
俺たちが過ごす宿がみえてきた
それは・・・・
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